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『うたをつぐもの』〜うたわれるもの・続編・第三幕〜 トゥスクルの動乱・外戦

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 トゥスクル城下の往来はガラの悪い人々であふれていた。聞こえて

くる騒がしさは喧騒と剣呑に乱れたもので、たゆたい渦まく活気と

殺気は、そこに生きる人々から発せられていた。

 当たりかまわずわめき散らす男を避けて、目つきの悪い子供たちが

走り去っていく。

 物陰に身をひそめる老婆は重い死の気配を振りまきながら、

見るからに怪しげな商人と何事か言葉を交わしていた。

 昼日中にも関わらず、どこか薄暗さを感じさせる大通りは、

そこかしこで邪なくわだてがささやかれているのではないかと

勘ぐってしまう。

 気の抜けぬ雰囲気を割り開きながら、某たちは歩いていった。



 ベナウィ殿の求めに応じ、『ティティカルオゥル』は城下の巡回を
              アンクアム
受けもつことになった。一介の雇兵がそのような役を任されても

民の不満をあおるだけであろうが、トウカ姉が率いているとなれば

話は別だ。

 大義の象徴たるエヴェンクルガの武士が治安を守ることに不平の

声が上がるはずもなく、某たちの存在はおだやかに受け入れられて

いた。

 少なくとも、表立っては。



 某たちが進むほど、往来の人々は道を開けていった。義を貫かんと

する清廉な気が悪しき気を制するのだと、先頭を行くトウカ姉は

誇っている。

 だが、事実はそうではない。

「……おい、タイガ」

「……なんだ」

「お前の姉上は、なんとかならんのか」

「……ならないだろうなぁ」

 テルテォと溜息を交わしながら、某は先行くトウカ姉を見た。

 その、闘気をほとばしらせる立派な背を。

 明らかな威圧の気に、自身は気がついていないのだろう。離れて

いく人々の目には、廉恥ではなく恐怖が浮かんでいた。後ろからでは

わからなかったが、トウカ姉の表情は容易に想像できる。頼りに

されて集中しすぎ、周囲が見えなくなっているのだろう。

「相変わらずだな……」

「ああいうところ、トラちゃんと似てるよね」

「そうか?」

「そうですわね。あたらしい料理に集中しているときはつまみ放題

ですもの」

「……なるほど。以後注意しよう」

 笑いあうカミュとカリンの様子に反省する。相変わらず油断も

隙もない。この調子ではアルルゥも同罪か。厨房への出入り監視は

厳しくするとしよう。

「姫さまぁ。あまりこういうことには首を突っ込まないほうが」
                         アンクァウラ
「なに言ってるの。決めたことはきちんと守らないと、雇兵団の

一員としてやっていけないじゃない」
                    アンクアム
「ですから、なぜオンカミヤムカイの皇女が雇兵なんですかぁ」

「いいじゃありませんか。なにごとも人生経験ですわ」

「そんないいかげんな……」
                            はびこ
「なにをしている、気を抜くな。諸悪は人のゆるみにつけこみ蔓延って

いくのだぞっ」

「は、はいっ」

 振り返ったトウカ姉の叱責に、某たちは慌ててその後を追った。

 トゥスクルの現状は進むほど明らかになっていった。道を歩いて

いた者のうち十人に九人は、某たちの姿を目にするだけで散って

いった。歩きやすいことこの上ない。それだけ後ろめたい者が多いと

いうことか。往来の騒がしさは某たちの周囲だけ、眠るような

静けさに変わっていた。

 それでも、まったくの無人になるわけではない。残った人々は

疲れを隠しきれない表情の中にも、温かなまなざしで迎えてくれた。

元からの民であれ、流れ着いた者であれ、視線は同じように向け

られる。

 当然だ。正しく生きる者にとって、エヴェンクルガは決して

恐れるような存在ではないのだから。

 そんな時には、トウカ姉の表情にも柔らかな笑みが浮かんでいた。

 あくまで、正しき行いを前にした時だけだったが。

「む?」

 なごんでいた表情が一転して険しくなる。道の先にある店先から、

一方的な罵りの声が聞こえてきた。店主が強くでれぬのをよいことに、

徒党を組んだ荒くれ者どもが並べられた品々を堂々と懐に収めていた。

「往くぞ」

「おーう」

「りょうかいですわ」

「いや、いやいや、ちょっと待った」

 鍔を鳴らすトウカ姉に、嬉々として従うカミュとカリンを、某は

あわてて呼び止めた。振り返った三つの顔に、あからさまな不満と

苛立ちが浮かぶ。

「なんだ」

「いや、あの、あまり派手なことはせず、できるかぎり穏便に……」

「なにを生ぬるいことを。あの手のヤカラは徹底的に思い知らさねば

わからんのだぞ」

「それはまあ、わからんではないのですが……」

「そうだよ。中途半端はよくないよ、うん」

「わたしたちにも不満が残りますしね」

 トウカ姉はともかく、カミュとカリンは目的を取り違えている気が

するのだが、某の気のせいなのだろうか。三人一緒になって言い

つのられると反対する言葉がまるで出てこない。

 助けを求めて横を見れば、テルテォとムティ殿は沈黙を守った

ままでいた。なんと薄情な連中だろう。

 考えている間にも、三人の女たちはゴロツキどもに鉄槌をくだしに

行っていた。それが役目ではあるのだが、後始末をする身にもなって

ほしい。

「……この役目、本当に治安の維持になっているのだろうか」

「兵卒がそのようなことを考える必要はない」

「そうですよ。深く考えると胃に穴が開きますよ」

 諦めの声は爆音と共に。

 カミュの放った法術の威力に感心しながら、某はため息を吐いた。

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